わが国では戦後、一連の国語政策の流れの中で、官公署が公文書を作成するのに用いられる文、すなわち公用文についても改善が求められました。それには、用語用字や文体をやさしくすることだけでなく、「執務能率を増進する目的をもって」「一定の猶予期間を定めて,なるべく広い範囲にわたって左横書きとする。」(『公用文作成の要領』(*1))
ことも含まれていました。
その結果、公文書の横書きは、ごく一般的なものになりましたが、いまだに法令をはじめ、縦書きのまま残っているものがあります。しかし現在、事務のコンピューター化が横書きの領土を押し広げる大きな力となっています。
わたしたちにもっとも身近な縦書きの公文書といえば、戸籍簿でしょうか。これは、手書きの、またはタイプライターで打たれたものでしたが、この作り方が変わりつつあります。1994年(平成6)年の「戸籍法」の改正によって、戸籍事務をコンピューターで行うことになったのです。
コンピューターを使って仕事をするのですから、横書きでの処理になります。したがって、コンピューター化を済ませた市区町村では、今までの縦書きの「戸籍謄本/抄本」に代わり、横書きの「戸籍全部事項証明書/個人事項証明書」が交付されることになりました。(*2)
これまで縦書きであった公文書といえば、ほかに登記簿を思い浮かべる人もいることでしょう。登記事務も、1985(昭和60)年に制定された「電子情報処理組織による登記事務処理の円滑化のための措置等に関する法律」により、コンピューター化されることになりました。
これを終えた登記所では、縦書きの「登記簿謄本/抄本」に代わり、横書きの「登記事項証明書」が交付されます。(*3)
このように公文書の領域で横書きが進んでいるのですが、まだまだ手放しで喜ぶわけにはいきません。まだ本丸である法令や国会の決議などが縦書きです。公文書に縦書きと横書きがともに使われていることの不自然さをハッキリと見せつけるのは『官報』です。『官報』は原則として縦書きですが、横書きの文書もあるため、同じページに両方が混ざっています。しかも、共通の段組みを使っているため、紙面を縦にしたり、横にしたりしなければ読めないというシロモノです。
いまや、特に若い人たちにとって、横書きは当たり前のことになっています。上でコンピューターでの事務作業が横書きを推し進める大きな力となっていることを述べましたが、世間の横書きへの抵抗感がほとんどなくなってきたこともそれを後押ししているように思われます。
わたしたちはこのような横書きへの流れをさらに強め、法令などの横書きをぜひとも実現させていこうではありませんか。
(2007/08/31)
*1 『公用文作成の要領』は、公用文の改善を徹底させるために、1951(昭和26)年に国語審議会が建議し、翌年、内閣官房長官から各省事務次官あてに依命通知された。
*2 戸籍事務のコンピューター化の進みぐあい(2007年8月1日現在)
(1) 全国の市区町村数(政令指定都市は、区の数) 1,973
(2) コンピューター化した市区町村数 1,375(69.69%)
【法務省から提供されたデータによる。*3も同じ】
*3 登記事務のコンピューター化の進みぐあい(2007年8月1日 現在)
(1) 全国の登記所数 536庁
(内訳)
ア 不動産登記事務を取り扱う登記所数 536庁
イ 商業・法人登記事務を取り扱う登記所数 507庁
(2) コンピューター化された登記所数 536庁
(内訳)
ア 不動産登記事務コンピューター化登記所数 492庁
イ 商業・法人登記事務コンピューター化登記所数 507庁
〔参考〕「
なぜ「縦書き」でなく、「横書き」なのか」
(『カナノヒカリ』 937ゴウ 2007ネン アキ) (一部書き改めた。)