なぜ「縦書き」でなく、「横書き」なのか?
ユズリハ サツキ
【質問】
日本語は、縦に書くのが伝統である。カナモジカイはなぜ縦書きを横書きに変えようというのか。
【回答】
伝統といっても、守っていくべきものと、改めるべきものがあります。かつては、「男尊女卑」が日本の「伝統」でしたが、今「男尊女卑の伝統を守れ」などという人はいません。
日本語は、確かに江戸時代まではすべて縦書きでしたし、現在でも新聞や雑誌をはじめ縦書きが多く行われています。では、いったいなぜ日本語は縦に書かれるようになったのでしょうか。それは、日本がかつて圧倒的な影響を受けた中国の文章「漢文(当時の中国語)」が縦書きであったからに違いありません。縦書きが日本の伝統であるといっても、それは外国のマネをしたというだけで、積極的な意味を持つものではありません。(その縦書きの本家中国でさえ、横書きに踏み切っています!)
文章は、縦書きか横書きか、のふたとおりしかありえないのですから、合理的な書き方を選ぶべきです。縦書きには何の合理性もありませんが、横書きには次のような利点があります。
1.人間の視野は、縦1に対し、横2の割合で横の方が広くなっています。ですから生理的に横書きの方が読みやすくできているのです。縦書きの方が読みやすい、という人がいるのは、おもに慣れの問題です。(そのほか、一般に、横書きに適した書体などの工夫が十分になされていないことも理由のひとつと考えられます。)
2.文章では、多くの場合、数字が使われます。それも漢数字よりもアラビア数字(算用数字)の方が便利ですので多く使われています。アラビア数字は横に書くものですから、文章全体を横書きにするのが合理的なのです。
3.同様に、文章中に英文など「横文字」を交ぜる場合にも、当然、全文横書きにするのが便利です。
4.今は手書きをすることはあまりありませんが、手書きの場合に横書きの合理性が際立ちます。手書きの場合、縦に書くと、すでに書いた部分が、書いている手で隠れて見えなかったり、すれたりして、とても不便です。横書きでは、そのようなことはありません。
5.人間の手は、左から右へ書くのが機能的に自然です。漢字やカナの横線は必ず左から右へ書きますし、何種類かある速記法もすべて左から右へと書きます。(つまり横書きです。)
6.印刷するとき、紙の節約になります。1行中の文字の数は普通、横書きよりも縦書きの方が多くなりますが、文書番号、日付、件名、受信者名、発信者名、「記」、「以上」、箇条書きの各項目など、わずかな文字しか書かない行では、縦書きの方がムダになるスペースが多くなります。
7.カタカナの文章は、語形を作ることにより、読みやすくなります。カタカナは字画が少なく、漢字の部品ともいえるもので、語形を作る力を潜在的に備えており、肩(カタ)線(「ア、カ、サ」などの上の横線)の高さをそろえることにより、その効果をいちじるしく高めることができます。縦書きでは、それができません。
理由は、まだまだ挙げることができますが、上に書いてきたことだけでも、横書きが合理的であることは明らかでしょう。現在横書きが広まっているのも、その合理性によるものと思われます。
文章を草書で書く場合などは、縦書きでなければならないでしょうが、それは特殊な場合であって、わたしたちの目的とする「日常生活で用いる文章」の書き表わし方の改革とは別の問題です。
(『カナノヒカリ』 931ゴウ 2006ネン ハル)(一部書き改めた。)
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