「カナノヒカリ」 712ゴウ (1981ネン 12ガツ)
なぜ 「にげろ」と いわなかったか
ウスイ ユキオ
10月16日の 北炭夕張新鉱の ガス事故は まことに いたましい できごと でした。 いまも なお、犠牲者が 地底に のこされて います。
この 事故で、連日 テレビ わ 現場 からの 中継を して いましたが、その なかで 難を のがれて 逃げた ひとりの 坑夫が 「なぜ にげろ と いわなかった のか」 と 会社がわに 抗議して いる 場面が ありました。 それわ、事故発生の ときの 坑内放送が 「退避せよ」と いったのか 「待機せよ」 と いった のか はっきり せず、とまどった と ゆう のです。
同音語 や 音が にて いる ことばで いみを とりちがえる ことは 日常 よく ある こと です。 たいていの ばあい あとで 気が ついて わらい−ばなしで すんで いますが、この ような 事故の とき には 問題 です。
もしも、「たいひ」 を 「たいき」 と ききちがえた こと から、なんにん かの 犠牲者が ふえた と したら 大問題 です。 実情が どうだったか のか わたしわ しりませんが、テレビ を みた かぎり 「たいひ せよ」 と 坑内放送が あった ことも、その 理解に とまどった ことも 事実 だと おもえます。 どちらも じゅうぶん ありうる こと だと わたしわ おもいました。
戦争中の 陸軍で 部隊を 「後退させる」 を 「交替させる」 と とりちがえ 損害を うけたと ゆう はなしが ありましたが、事故 や 戦争 など、いっしゅんを あらそう ときに、指令の 用語の 理解に とまどう、あるいわ べつな 意味に ききちがえる。 こんな ことが あって いい でしょうか。 なんとも いいようの ない むなしさを かんじます。
同音語や にた 音の ことばわ、復古論者の ゆう 漢字の 造語力に まよわされた 漢字語に 多い もの です。 わたしたちわ 漢語を やめて 和語を つかおう と となえて いますが、北炭事故で 坑夫が さけんで いた 「なぜ にげろ と いわなかったか」 に、あらためて ニッポン語の 独立運動、カナモジ運動の 重要さを かみしめました。
〔原文は漢字カタカナ交じり文〕