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戸籍の字体の整理は、不徹底だ
フジワラ タダシ 
 2007年アキ号で紹介しましたように、戸籍事務がコンピューター化され、横書きで処理されることになり、戸籍関係の証明書も横書きのものが交付されるようになりました。
 このことは、横書きを進めるわたしたちにとって歓迎すべきことですが、戸籍事務のコンピューター化は、もうひとつ日本国民にとって喜ばしいことをもたらしました。それは、戸籍に記載されている漢字の「異体字」が整理されることになったことです。
 あらたに戸籍を編成するときなどに、誤字・俗字で記載されている氏または名を「正字」で記載することは、すでに1990(H2)年に出された法務省の通達(*1)によってできることになっていました。さらに、戸籍法の改正によって、1994(H6)年には、戸籍事務をコンピューターを用いて行うことができることになりましたが、コンピューター化の際には異体字の整理も同時に行われます。今ではそれを終えた市区町村が70%に達しています。
 戸籍で用いる文字の字種と字体については、コンピューター化に伴って改められた先の通達や通達によって示された「誤字俗字・正字一覧表」(2004(H16)年に人名用漢字が増やされたことに伴い一部改定されていますが、実質的な変更はありません。)(*2)などによることとされ、今日に至っています。
 今は、子どもが生まれたときにつけられる 名前(名)は、使える漢字が常用漢字と人名漢字に限られており、字体にも制限がありますが、苗字(氏)は、代々引き継がれていくので、膨大な数の異体字が戸籍に使われていました。本人が申し出るか、市区町村長が戸籍の届け出を受理するときに職権で直さないかぎり、そのまま戸籍に残っていたのです。
 実は、わたしの苗字も戸籍には少し変わった漢字がのっていました。クサカンムリが真ん中で切れていて、「十」をふたつ並べたようなカタチになっていたのです。わたしはこんな変な字を使いたくはなかったので、普通のクサカンムリを使っていましたが。
 このような異体字がコンピューター化によって一挙に「正しい」字に直されることになります。それは大変結構なことなのですが、問題は残ります。
 「正字」などに直される「異体字」とは、正確にいえば、「誤字」と「俗字」のうち漢和辞典にのっていない ものなどであって、一般的でない字体がすべて取り除かれるということではないのです。
 戸籍で氏・名に使える「正字等」として、「常用漢字」(厳密にいうと「常用漢字表の通用字体」)、「人名用漢字」、「康煕字典体または漢和辞典において正字とされている字体」、そのほか通達によって法務省が認めた字体(「邉」、「髙」、“1点シンニョウの「辻」”など)が示されています。 が、それだけにとどまらず、「漢和辞典に俗字としてのっている文字」のほか “青ヘンの下の部分が「円」であるべきところ「月」になっているもの”、“シンニョウの点がふたつあるべきところ、ひとつしかないもの”なども使うことのできる「俗字等」として、定められています。
 したがって、これからも複数の字体が並んで使われていくのです。「正しい」字がひとつではないのです。せっかく異体字の整理をするというのに、これでは不徹底であるといわざるを得ません。こまかいことをあげていくとキリがありませんので比較的わかりやすい例をふたつだけあげます。
 「国」は新字体(常用漢字表の通用字体)であり、「國」はその旧字体。それに加えて「圀」も「古字」として漢和辞典にのっているので、これらはいずれも「正字等」に含まれます。さらに、“クニガマエの中が「玉」でなく「王」になっているもの”も使用が認められた「俗字等」に含まれているのでオーケーということになります。したがって、あわせて4字体が引き続き使われていくことになります。
 「崎」は、いうまでもなく正字ですが、その異体字「﨑」も「正字等」に含まれます。また、それぞれの「山」が左ではなく上にあるものも同じ扱いをされますので、この字種もあわせて4字体が残されます。
 ところで、自分の氏名の字体にこだわる人は少なくありません。「わたしの苗字の『たか』は、『高』ではなく『髙』です。『さわ』は『沢』ではなく『澤』です。」、「『島』ではなく『嶋』です。」、「『辺』ではなく『邊』です。」……。
 この人たちは、「高沢」ではダメで、「髙澤」のように「正しく」書いてもらえないと不満のようなのです。 しかし、本来『高』と『髙』、『沢』と『澤』は同じ字。ただ、デザインが違っているだけです。たまたま戸籍にそのデザインのものがのったにすぎません。
 自分の氏名を人に書いてもらうときに「正しい」字を書くように求める。これは、相手にとっては、あまりありがたいことではありません。なぜならば、たいていの 場合、その人の苗字が「たかざわ」さんであることが わかればそれで十分なのであって、字体などは、どうでもいいことだからです。
 だからといって、その人たちを責めるのは筋違いでしょう。かれらもまた、同じ字種に字体がいくつもあることの被害者なのです。戸籍に旧字体がのっているために画数の多い難しい字を使わなければならない。新字体で 書いてすむ場合もあるが、そうでない場合もある。どちらの字なのか聞かれることもよくある。コンピューターでの処理がヤッカイ。 間違えられることも多い。漢字を習い始めた子どもにどちらを教えたらいいのか迷う。 などなど。あまりいいことはありません。
 責められるべきは、戸籍の字体の整理を中途半端にした法務省です。新字体がこれだけ広く使われているのに、戸籍には旧字体などを残した。この罪は、軽くはありません。もちろんこの背後には復古主義の勢力の圧力が あったわけで、法務省の役人を責めてもしかたがないかもしれませんが。
 戸籍の氏が旧字体などになっていても、申し出れば新字体に直すことができます。 希望する方には、市区町村の役所で手続きをすることをお勧めします。
 
 *1 平成2年10月20日付け法務省民2第5200号 法務局長、地方法務局長あて民事局長通達 「氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する通達等の整理について(通達)」
 *2 平成16年10月14日付け法務省民1第2842号 法務局長、地方法務局長あて民事局長通達 「氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する「誤字俗字・正字一覧表」について(通達)」

 (『カナノヒカリ』 939ゴウ 2008/ハル)(一部あらためた。)

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