「カナノヒカリ」 908ゴウ (2000ネン ナツ)

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カタカナで書く囲碁用語

キクチ カズヤ   

   
 「好物は薇と薯蕷と薤」。今でもこのように難しい字を使って文章を書く人がいます。パソコンやワープロが普及した今、難しい漢字を使うことに対する抵抗感は薄れているかもしれません。しかし、読む人のことを考えれば、ムヤミに難しい字を使うことは避けるべきでしょう。
 しかし、「好物はぜんまいとやまのいもとらっきょう」のように、ひらがなばかりがつづくとことばとことばのきれめがわかりにくくなり、よみづらくなります。
 読みやすく するには、 分かち書きを して、 「好物 は ぜんまい と やまのいも と らっきょう」 の ように すれば よいの ですが、 分かち書きは まだ 広まって いないので、 場合に よっては 実行は 難しいかも しれません。
 読みやすくするもうひとつの方法は、カタカナを使うことです。適当にカタカナをまぜるとコトバとコトバのクギリがハッキリしてワカチガキをするのと同様の効果が得られます。「好物はゼンマイとヤマノイモとラッキョウ」。
 私は本誌1998年4月号で、いわゆるカタカナ語でも専門用語でもない普通のコトバをカタカナで書くことによって読みやすい文章を作ることに成功している例として、「週刊ファイト」という新聞を紹介しました。今回は、専門用語をカタカナで書く例として、「週刊碁」(日本棋院編集発行)を紹介します。

 まず、2000年2月28日号から、カタカナで書かれている囲碁用語をすべて拾い出してみます。(動詞は終止形で示します。)
アタリ、アテる、オキ、オサエ、オサエる、オシ上げ、カカリ、カカる、カケ、カケツギ、カド、カタツキ、カラい、ケイマ、コウ、コスミ、コスミツケ、コスミツける、コスむ、コミ、サガリ、サガる、サシコむ、スベる、サバキ、サバく、シチョウ、シノぐ(ただし仮定形は「シノゲ(ば)」)、シノゲる、セキ、タケフ、タタく、タネ石、ダメ、ダメヅマリ、ダメヅメ、ツギ、ツキアタる、ツグ、ツケ、ツケヒキ、ツケる、ツケコシ、ツケコす、ツナぐ、ツメ、トビ、トブ、ナカデ、ノゾキ、ノビ、ノビる、ノビ出す、ハウ、ハサミ、ハサむ、ハサミツケる、ハネ、ハネる、ハネ出し、ハネツギ、ハネツぐ、ヒキ、ヒラく、ブツカリ、ブツカる、フトコロ、フリカワリ、ヘコむ、ホウリコミ、マガる、マゲ、マクる、眼アリ眼ナシ、モク、ヨセ、ヨミ、ワカレ、ワタリ、ワタる、ワリコミ。
 たまたまこの号では使われていませんが、カタカナで書く囲碁用語はほかにもたくさんあります。アゲハマ、アシダ、ウッテガエシ、カカエ、ゲタ、ジゴ、シマリ、スソ、ツブレ、ナラビ、ニギリ、フクレ、ボウシ、ポンヌキなどなど。
 このように多くの囲碁用語がなぜカタカナで書かれるようになったのかは知りませんが、結果的に囲碁を親しみやすいものに感じさせるという効果があると思います。たとえば、「コウ」は漢字で書けば「劫」ですが、これはもともとは仏教用語で、人間にはトウテイ実感できないような極めて長い時間をいいます。字を見ただけで気が遠くなるようです。「セキ」は漢字では「持」。まず読めません。こんなコトバを漢字で書いたら、囲碁はとてもとっつきにくいものに感じられるでしょう。
 加えて、上に書いたように、カタカナが漢字やヒラガナとの間に交じることによってワカチガキの役割を果たして読みやすくなる、という効果が得られています。
   白48のこすみつけは〜     右下隅のこうでしのぐ展開
   白48のコスミツケは〜     右下隅のコウでシノぐ展開

 ところで、この例で特徴的なことは、名詞だけでなく動詞や形容詞もカタカナで書かれ、また多くのバアイ、ヒラガナと組みあわされていることです。(このような書き方は一般の文章でまったくなされないワケではありませんが、「キレる」「ムカつく」「アブナい」などのようにあまりよくない意味合いで使われることが多いようです。)

 上にあげたもののうち動詞について、どのようなカタチで使われているか分類してみましょう。

  1 語幹、活用語尾ともカタカナ

ツグ、トブ、ハウ 
  2 語幹のみカタカナ
カカる、コスむ、サガる、サシコむ、スベる、サバく、シノぐ(仮定形の「シノゲ(ば)」は例外か?)、タタく、ツキアタる、ツケコす、ツナぐ、ハサむ、ハネツぐ、ヒラく、ブツカる、ヘコむ、マガる、マクる、ワタる (以上すべて五段活用動詞)
  3 語幹と活用語尾の1字目がカタカナ
アテる、オサエる、シノゲる、ツケる、ノビる、ハサミツケる、ハネる (以上すべて一段活用動詞)
(「コスミツける」だけは一段活用動詞でありながら、3のカタチをとっていないが、これは例外的なものと思われる。)
 これをひとつの原則にまとめるとすれば、「活用において変化しない部分(五段活用動詞は語根、一段活用動詞は語根プラス活用語尾の1字目)をカタカナで書く。ただし、語幹が1字のバアイは活用語尾もカタカナで書く。」のようになると思います。この書き方を漢字で書くバアイと比較してみると、ヒラガナで送る部分が少ないことがわかります。(漢字で書くバアイのオクリガナは、活用語尾を送ることが「本則」とされています。)
   当てる       継
   アテ       ツグ
その分カタカナで書く部分がおおくなり、カタカナ書きの効果を強めていると言えるでしょう。

 活用のあるコトバをカタカナで書くバアイ、漢字で書くときのようにヒラガナを送るのもひとつの方法だと思われます。ここで紹介した囲碁用語は現にそのような書き方がナサれていますが、この方式がベストかどうかは私にはワカりません。どのような書き方が最もヨミヤスいか、研究してミル価値はアルようにオモいいます。
◆この文章を書くにあたり、日本棋院編『新・早わかり 用語小事典』(1997年 財団法人日本棋院発行)を参考にしました。

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