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日本語(にほんご)をバリアフリーのコトバに(3)
外国人(がいこくじん)(つめ)たい日本語(にほんご)()きコトバ~
キクチ カズヤ 
 日本語を母語としている一般の人々(健常者)にとって、新聞の記事程度の日本語を読むことは、そう難しいことではないかも知れません。しかし、日本語をあらたに学ぼうとする外国人にとっては、日本語の書きコトバを習い覚えるのには、相当の困難がともないます。その原因はいうまでもなく、漢字の難しさにあります。
 日本語はコトバそのものとしては、決して学びにくいコトバではない、とよくいわれます。実際、日本語を流チョウに話す外国人のタレントなどは、テレビでもよく見ます。しかし、日本語の書きコトバを日常生活に不自由のないまでに身につけている外国人は、まったくいないわけではありませんが、例外的といってよいでしょう。日本語を母語とする人が、ある程度の漢字を読み、書くことができるのは、コドモのときから膨大な学習時間を費やし、大変な努力をしいられて、頭にたたきこまれてきたからで、そうでなければ、数が多く、しかも使い方の複雑な漢字を覚えることは、至難のワザといえるでしょう。
 お断りしておきますが、わたしは日本語を国際語にするために、バリア(障壁)となる漢字を取り除かなければならない、などと主張しているわけではありません。(そもそも英語であろうと、日本語であろうと、民族語を国際語として使おうなどという考えは誤っていると思っています。) コトバや文字の問題の中心は、それを母語とし、使っている人々にとって、どうあるべきか、ということであるはずです。
 にもかかわらず、外国人と漢字の問題をここで取りあげるのは、外国人にとっての漢字の問題は、日本語を母語とする人にとっても共通する問題であるからです。(漢字が日本語にとって、また日本語を母語とする人にとって、いかに有害なものであるかについては、すでに完璧に論証されていますので、ここではふれません。)
 外国人であっても、一定の期間日本で生活するならば、日本語の読み書きができたほうが暮しやすいでしょうし、自分が住んでいる国のコトバを覚えるのは礼儀ともいえるでしょう。しかし、日本語の書きコトバで用いられる漢字は日本語を母語にする人にとってさえヤッカイなものです。まして、外国人にとっては、「悪魔の文字」そのものでしょう。特に、「漢字文化圏」に属さない人々ははじめから学ぶのを諦めてしまうことが多いのではないでしょうか。
 実際、漢字を覚えようとする外国人の苦労は並大抵ではありません。ある日本に住むベトナム人は、13年もかけてベトナム人のための漢字辞典(*1)をつくり、数年前に出版しました。日本で生活する同胞に大変喜ばれたようですが、この辞典におさめられた漢字は小学校で習う1006字。これ1冊をマスターしても、日常生活で必要な漢字の半分にもみたないでしょう。
 特に心配されるのは、将来をになうコドモたちのことです。日本で働く南アメリカなどの日系人のコドモが日本の学校に転入学した場合などは、やはり漢字がツマズキとなることが多いようです。漢字が分からなければ、「国語」だけでなく、算数も理科も社会科も分かりません。
 ところで、日本に住む外国人の日本語の読み書きの力はどの程度のものなのでしょうか。これを知るには、昨年(2001年)文化庁が実施した調査「地域の日本語教室に通っている在住外国人の日本語に対する意識等について」(*2)が大変参考になります。これは、日本語教室に通っている外国人600人を対象行った調査で、その中に、次のような項目があります。

日本語の文字やローマ字を読む力(複数回答可)
  平仮名が読める       84.3%
  片仮名が読める       75.2%
  ローマ字が読める      51.5%
  漢字が少し読める      48.5%
  漢字が読めて意味もわかる  19.6%
日本語の文字やローマ字を書く力(複数回答可)
  平仮名が書ける       84.0%
  片仮名が書ける       73.7%
  漢字が少し書ける      49.4%
  ローマ字が書ける      49.1%
  漢字が十分に書ける     17.6%

 この結果を見ると、外国人にとって、カナを覚えるのは難しいことではないらしいことが分かります。数は多くありませんし、表音文字ですから、覚える気さえあれば、たやすく身につけられるでしょう。
 日本語の読み書きを学ぶ上で、バリアになっているのが漢字であることは明らかです。漢字の読み書きのできる外国人が意外に多いようにも感じられますが、これはこの調査の対象者が日本語教室に通っている、つまり日本語の学習に相当熱意のある外国人であること、また、対象者の国籍などは不明ですが、いわゆる「漢字文化圏」出身者がかなりの割合をしめているためと思われます。非「漢字文化圏」出身者だけに限れば、おそらくゼロにかなり近い数字になるのではないでしょうか。
 一方、ローマ字については、この結果に関して「意外に少ない」という修飾語つきで報告されています。わたしは、「意外に少ない」 理由として、(1)ローマ字は固有名詞を除いては、現実には日本ではほとんど使われていない。(2)ローマ字(ラテン・アルファベット)以外の文字を用いる言語を母語とする人々も決して少なくない。(3)ローマ字は相対的には国際性の高い文字であるとはいえ、その「国際性」とは、実は、その「字形」についていえることであって(それも、字上符などを除いてのこと)、「音」は共通でない。ということが挙げられると思います。
 今回の調査結果について、文化庁のある職員は、「公共施設では漢字にローマ字の併記が多いが、ひらがなも書いたほうが親切」と言っています(「読売新聞」2001年8月6日)。しかし、同じ日本語に3とおりもの表記をするのは不経済です。日本人と日本の社会にとけこんで生活している多くの外国人がともに理解する文字は、カナなのですから、カナだけの表記でよいのではないでしょうか。もちろん、一時的に日本に滞在している外国人のほとんどは、カナが読めないでしょうが、日本語そのものも知らないのですから、ローマ字で書かれた日本語を見ても意味は理解できません。かれらのためには、むしろ英語やハングルを添えるほうが、ずっと親切でしょう。たとえば、「KOBAN」ではなく、「こうばん / POLICE BOX」の ように。繰り返しになりますが、日本語を学ぶ外国人はローマ字書きよりカナ書きのほうが読める、という調査結果が出ているのです。
 カナモジカイが主張しているように、漢字を廃止すれば、外国人にとっての日本語の書きコトバの問題も自然に解決します。当面は漢字廃止の実現は期待できませんが、せめて外国人向けの表記はできるだけカナ書きをするようにすれば、外国人にとって日本語の書きコトバに対するバリアは幾分なりとも低くなるのではないでしょうか。

*1 ド・トン・ミン氏あらわす 『千六の漢字』
*2 調査結果の全文は、文化庁のホームページで見ることが できる。〔現在は閉鎖されている。〕          

 (『カナノヒカリ』 914ゴウ 2002ネン フユ) (一部書き改めた。)

(このページおわり)