日本語をバリアフリーのコトバに(1)
~知的障害者から書きコトバを奪っているものは何か~
キクチ カズヤ
昨年〔2000年〕の11月18日から19日にかけて千葉市幕張でひらかれた「ピープルファースト大会in東京」の閉会式で、カナだけでかかれた宣言文が力づよく読みあげられました。ここにその一部を紹介します。
〔ピープルファースト宣言〕
わたしたちピープルファーストは、わたしたちじしんの グループです。
いままで わたしたちは「じぶんで しり、じぶんで きめて、じぶんで する」という あたりまえの ことを みんな きづかないうちに うばわれてきました。 ………
わたしたちの はなしを もっと きいてください。
わたしたちは これからも どんなさべつに たいしても こえを だしていけるように はげましあって たたかっていきます。
わたしたちは、しょうがいしゃで あるまえに にんげんです!
「ピープルファースト」とは、「(知的障害者である前に)まず人間として」という意味で、自分たちの生き方は自分たち自身で決めていこう、という知的障害者の運動の名称として使われています。この運動は1970年代にアメリカで始まり
、今では世界44カ国に広がっています。日本では1994年に第1回の大会が開かれています。7回目となった今回の大会には、全国から784人が参加しました。
ところで、この宣言文がなぜカナばかりで書かれているのかは、あらためて説明するまでもないでしょう。
知的障害者の中には、漢字の知識は十分ではないが、カナでならば読み書きができる、という人はおおぜいいます。彼らはカナで文章を書いて、自分の考えていることを人に伝えることができます。しかし、一般の漢字交じりで書かれた文章を読むことは困難です。
かれらには、自己を文字によって表現するだけでなく、ほかの人が書いたものを読んで情報を得る権利があるはずです。しかしその権利は事実上奪われています。
漢字が バリア(障壁)になっているのです。
日本語の表記法は間違いなく世界で一番むずかしいものです。その原因は、漢字の字形の複雑さ、数の多さ、そして使い方の煩雑さにあります。ですから漢字制限や字体の簡略化などの改革が行なわれたのは必然的なことでした。しかしその改革は道なかばで足踏みをしています。日本語は漢字なしでは書けない、カナだけで書いたものなど本当の文章ではない、という誤った考え方が根強く残っています。
一方、今では、社会のありかたとして「バリアフリー」をめざすことが当たり前のこととされています。しかし、コトバにおけるバリアの問題に思いいたる人は
きわめて少ないようです。コトバは人間のいとなみの中で決定的に重要な位置をしめるものであるにもかかわらず。
「バリアフリー」という思想が普遍的なものであるならば、コトバのバリアも取り払うのが当然でしょう。そのためには、知的障害者や視覚障害者、そして外国人のおおくにとって超えることのできないバリア、そしてほかの言語ではありえないバリアである漢字を、すくなくとも日常生活では、使わないようにすることが絶対に必要ではないでしょうか。
◆この文章の中のピープルファースト大会に関するくだりは、『福祉広報』504号(2000年12月 社会福祉法人 東京都社会福祉協議会 発行)「わたしたちの話をもっと聞いて!」によっています。
(『カナノヒカリ』 911ゴウ 2001ネン ハル) (インターネットの特性に合わせ、一部表記を改めた。)
(このページおわり)