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漢字(かんじ)漢語(かんご)は、漢字(かんじ)文化圏(ぶんかけん)共通語(きょうつうご)として尊重(そんちょう)されるべきか?
ユズリハ サツキ 
 【漢字廃止論への批判】
 日本は、漢字文化圏の一員として他の国々と漢字文化を共有している。このことを考えれば、漢字・漢語は漢字文化圏の共通語としてこれからも尊重していくべきではないか?

 【反論】
 ご質問の内容が漠然としていて、どうお答えしていいか分かりませんので、いわゆる漢字文化圏でのコトバと文字に関連する事柄をいくつか指摘することでお答えとさせていただきます。

 1.漢字文化圏とは、中国と漢文を媒介として中国文化を取り入れた国々が構成する地域のことを指すものと思いますが、これらの国々が共有しているのは、漢字というよりも中国文化であることに心をとめてください。

 現在、この文化圏に属しているのは、中国(大陸)、台湾、北朝鮮、韓国、ベトナム、そして日本の6つの国(国と地域)ですが、北朝鮮では漢字は廃止してハングル専用に踏切りましたし、韓国でもほぼハングルのみを使っています。ベトナムではローマ字を採用しています。

 したがって、漢字という共通の文字を使っているのは、今では、中国(大陸)、台湾、そして日本だけであって、漢字文化圏全域ではありません。

 2.しかも漢字の字体は現在、中国(大陸)では簡体字、台湾では繁体字、日本では日本式の新字体を用いており、かなり異なったものになっています。これらの字体を学ばなければ、同じ字であってもそれと分からないことがとても多いのです。

 3.次に、漢字ではなく、漢字語(漢語)の共通性について考えてみます。今は漢字を使っていない国々でも漢字語は、それぞれの言語の語イ全体の約6割を占めています。ですから、語イに関しては共通する部分は少なくありません。

 とはいえ、それらを耳で聞いて分かることはまずありません。たとえば、わが国の名称「日本」は、漢字語であって、ほかの国でもそれが使われているのですが、中国語では「リーベン」、韓国・朝鮮語では「イルボン」、ベトナム語では「ニャットバン」、日本語では「ニホン」または「ニッポン」と発音されるので、かなりの違いがあります。

 ハングルやローマ字で書かれた漢字語を目で見ても意味が分からないことはいうまでもありません。

 4.さて、現在漢字が使われている中国(大陸)、台湾、日本では、質問者が言うように、少なくとも書きコトバとしては漢字・漢字語が共通語として機能しているのでしょうか。2で述べた字体の違いというハードルを乗りこえられたとして、中国語を学んだことのない日本人が中国語で書かれた新聞や雑誌を読んで少しでも理解できるでしょうか。ご自分で試してみれば納得されると思いますが、まず無理です。漢字の用法が異なるのです。

 5.文章は読めなくても、単語を並べる程度の筆談ならできるのではないか、と思われるかもしれません。しかし、そこには大きな落とし穴があります。字ヅラは同じでも日本語とは意味が違うコトバが限りなくあるのです。たとえば、「走」、「愛人」、「手紙」は、それぞれ、日本語では「はしる」、「情婦・情夫」、「てがみ」の意味ですが、中国語では、「あるく」、「妻・夫」、「トイレットペーパー」の意味になります。うかつに筆談などをしますと(できたとしても)、とんでもない誤解を招きかねません。

 母語で漢字を使っている外国人が相手であっても、コミュニケーションをはかるには、語学力をシッカリと身につける必要があります。

 6.上に述べてきたように、漢字文化圏において漢字・漢字語にまったく共通性がないとはいえません。しかしそれは、きわめて限定されたものなのです。ですから、言語・文字に関するかぎり、特に強調するほどの意味があるとは、わたしには思えません。

 (『カナノヒカリ』 952ゴウ 2011ネン ナツ) (一部書き改めた。)

(このページおわり)