「カナノヒカリ」 903ゴウ (1999ネン ハル)

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これが「ゆとり」ある教育か〜減らなかった教育漢字

                                             キクチ カズヤ 


   
 小学校と中学校の学習指導要領が昨年12月14日付けの文部省告示をもって10年ぶりに改訂されました。学校週5日制が完全実施される2002年4月1日から施行されます。
 今回の改訂のねらいは、昨年7月の教育課程審議会答申を受けて、完全学校週5日制のもとで、「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し、児童・生徒に自ら学び自ら考える「生きる力」を育成する、というものだということです。
 「ゆとり」については、具体的には、年間授業時数を現行より週あたり2単位時間削減すること、また、教育内容は授業時数の縮減以上に厳選し、ゆとりの中で基礎的・基本的な内容を繰り返し学習し、その確実な定着を図ること、とされています。
 今回の改訂で、本当に「ゆとり」がもたらされるならば、それは歓迎すべきことでしょう。昨年11月13日に文部省が発表した「学校教育に関する意識調査」によれば、授業が「よくわかる」と答えた小学3年生は22.1%、小学5年生は17.7%、中学2年生は 4.7%にすぎないのですから。
 コドモにとって最も大きな負担となっているのは、漢字の学習でしょう。ですから、今回の改訂で、漢字の学習も大幅に軽減されたことだろう、と思いきや………。

 漢字教育の規準となっているのは、小学校学習指導要領の「学年別漢字配当表」で、この表に収められる漢字は、教育漢字と通称されています。この表のもとになったのは、国語審議会が義務教育期間に読み書きともにできるよう指導することが必要であるとして選定し、1948年に発表された「当用漢字別表」で、 881字からなっていました。この 881字を学年ごとに割り当てて作られたのが「学年別漢字配当表」で、1977年の学習指導要領の改訂の際に 996字に、1989年の改訂の際に1006字に増やされて現在に至っています。しかし、この 1006字は、義務教育期間にはとうてい身につかない、教えきれないということが教育現場での常識になっています。
 学校週5日制の完全実施にともなって、小学校の6年間で減る国語の授業時間は 224時間。しかも教育内容は、「授業時数の縮減以上に厳選」するというのですから、教育漢字も減らすのが道理です。ところが、今回の改訂では、「学年別漢字配当表」そのものの見直しはまったくなされず、現行どおりとなってしまいました。
 といっても、「ゆとり」をうたった以上、何もしないワケにはいかない、ということでしょう。「配当表」の取扱いの上では「厳選」がなされた、ということになっています。それは、「漢字の書き」について、小学校では各学年に配当された漢字の「大体を書くこと」とされていたのが、「漸次書くようにすること/上の学年までに文や文章の中で使うこと」に、中学2年では「1006字を身に付け、文章のなかで適切に使う」が「 950字程度の漢字を書き、文や文章の中で使う」に、中学3年では「1006字について使い慣れ、文章の中で適切に使う」が「1006字の漢字を書き、文や文章の中で使う」に改められました。これだけなのです。(「漢字の読み」については、現行どおり。)
 小学校での「漢字の書き」についていえば、2学年をかけて学べばいいということになったワケです。しかし、義務教育段階の到達目標は変わらないのですから、これで負担が軽くなることはほとんど期待できません。
 さらに、授業時間が減ることを考えれば、負担が軽くなるどころかむしろ反対の状態になるのではないかと危グされます。教育現場で、「これでは『ゆとり』はうまれない。」との強い批判の声があがっているのも当然でしょう。
 「書き」よりも「読み」を優先するという考え方自体は、決して間違ってはいません。漢字で書けなくても、カナで書けば文章をつづることはできるのです。また、オトナでも、書ける漢字は読める漢字よりもずっと少ないというのは厳然たる事実なのですから、コドモがそうであってはいけないとは言えません。さらに、社会生活では、ワープロの普及によって手書きをすることが大幅に減っている(手書きができなくても文書は作れるようになった)ということも「読み」を優先すべき理由のひとつに挙げられるかもしれません。
 「ゆとり」を絵にかいたモチにおわらせないためには、「書き」に2学年をかけるといったような小手先の「厳選」ではなく、「書き」の字数を大幅に減らすことによって「読み」優先の考え方を徹底すべきでした。

 国語の学力は、他の教科の学習の前提でもあります。国語の授業に落ちこぼれれば、他の教科の授業でも落ちこぼれることになります。聞くところによると、少年院では漢字の教育に重点がおかれているそうです。これは、非行の原因の一つに漢字の力の不足があるということでしょう。漢字教育は、単に学力の問題ではなく、コドモの将来、社会の安全にも深刻な影響を及ぼしているということなのです。国語での落ちこぼれをなくすことは、重要な課題です。
 「国語の学力は重要だからこそ漢字の教育に力を注がなければならない。漢字をたくさん教えなければならない。」という意見もあるでしょう。しかし、事実をいえば、漢字を多く教えれば多く覚えるだろうというのは見当ちがいで、むしろ、漢字を精選して教えたほうが「歩どまり」はよくなるのです。今年の1月に開かれた教職員組合の研究集会では、教育漢字のうち600字程度を精選して教えた結果、よい成果をあげている事例が報告されています。
 とは言っても、学習指導要領は法的拘束力をもっていますので、「学年別漢字配当表」をまったく無視して教えることもできないという現実があり、教育現場の努力だけで解決することは困難です。
 漢字教育を改善していく(コドモの負担を軽くしていく)ためには、漢字学習の負担の大きすぎること、教育漢字の精選が必要であることを社会に訴え、世論を高めていく必要があります。それとともに、社会生活での国語表記も一部の文字エリートのものではなく国民すべてのものであるという観点にたち、よりやさしいものにしていく必要があるでしょう。学校の内側と外側とは無縁ではありえないのですから。

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