「カナノヒカリ」 897ゴウ (1998ネン 4ガツ)

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カタカナは「カタカナ語」以外にも使い道がある

                                             キクチ カズヤ 


   
   〈コトバの説明〉
     表外字   『常用漢字表』にない漢字
     表外音訓  『常用漢字表』にない音訓
     交ぜ書き  1つの語を漢字とカナをまぜて表記すること
             例: 招へい(招聘)
     熟字訓   2字以上の漢字の組み合わせによる特殊な読み方
             例: 紅葉(もみじ)

 私は、1996年12月号で、カタカナを使うことによって交ぜ書きの「読み取りにくさ」を解消することができること、また、語全体をカナで書く場合でも、カタカナを用いれば前後のヒラガナとの区切りがついて読みやすくなることを述べました。また、このような表記法は、一部のマスコミで現に行われていることにも触れました。今回は、その実例をご紹介したいと思います。
 「週刊ファイト」(新大阪新聞社)というプロレス専門タブロイド紙の1997年11月13日号から、カタカナで書かれた語のうち、いわゆる「カタカナ語」でないものをすべて拾いあげ、どのような語がカタカナで表記されているのか大マカに分類してみます。
            
1 表外字や表外音訓のあてられる字をカタカナで置き換えたもの
(1)表外字で書かれる語をカタカナ書きしたもの
    アダ ウワサ オレ ガケ カンジ(として) カンヌキ キズナ
    キバ ケサ ケンカ サソリ シコリ タモト ツメ トリデ ナゾ
    ノド ハツラツ ヒザ ヒジ フンドシ ヤツ ヤユ ワキ;
    カスリ傷 モメ事
 難しい漢字は使わないのが編集者の方針なのだと思います。(マスコミとして当然のことですが。)日常使われる語なら、漢字で書かなくても意味はわかります。いや、むしろ「閂」「蠍」などと漢字で書くより、「カンヌキ」「サソリ」とカナで書いた方がよほどわかりやすいでしょう。同音語のある語も前後関係から判断がつきます。
 「カンジ」だけは、意味がつかめない人がいるかもしれません。前後関係から「莞爾」であることが明らかなのですが、それがわからない、とすれば、この語を知らないからで(今ではメッタに使われない語ですから)、そういう人は、漢字で書かれてあっても意味はわからないでしょう。
 「カスリ」「モメ」は、この場合、複合語の成分ですが、送りガナも含めてカタカナ書きされているので、語としてのまとまりが取れています。

(2)表外字を含む語全体をカタカナ書きしたもの
    イス ケガ ニキビ バカ ワガママ ワラジ
 漢字で書けば、椅子、怪我、面皰、馬鹿、我儘、草鞋。2字が組み合わされた語ですが、そのうちの1字「椅」「怪」「皰」「鹿」「儘」「鞋」が表外字。「面皰」と「草鞋」は、しかも熟字訓です。

(3)表外音訓をあてる語をカタカナ書きしたもの
    エビ ケレン スシ マナ弟子 マネ メド;
    ヤル気
 漢字で書けば、海老(「蝦」なら表外字)、外連、寿司(「鮨」なら表外字)、愛弟子、真似、目処、遣る気。いずれも常用漢字ですが、「海老」は『常用漢字表』の「付表」にない熟字訓、「外」「寿」「愛」「似」「処」「遣」は表外音訓があてられています。
                  
 上にあげたものは、漢字で書けば表外字・表外音訓が使われる語ですから、カナで書くのは当然として、ヒラガナでなくカタカナが用いられているため読み取りやすくなっています。
  【比較】  最後のとりでは  
        最後のトリデは   
        〜にたもとをわかった
        〜にタモトをわかった
 表外字・表外音訓はなるべく使わないように心がけている人でも、ヒラガナが続くと読みにくくなるため、不本意ながら表外字・表外音訓を使ってしまうことが、あるのではないかと思います。そのようなときは、カタカナ書きすることによって、漢字を使わずに済ませられる場合があります。こういうカタカナの使い方をぜひ広めたいものです。

(4)表外字を含む語の一部をカタカナ書きしたもの
    アッ気(ない)、ガイ旋、強ジン、終エン、対ジ、バ倒、バン回;
    超ド級
 表外字だけをカタカナ書きした交ぜ書きです。この場合も意味がつかめない、などということは、ないでしょう。「超弩級」のような漢字3字の語も交ぜ書きすることがあります。
 交ぜ書きの場合も、ヒラガナでなく、カタカナを使うと読み取りやすくなります。
  【比較】  5月にがい旋帰国 
        5月にガイ旋帰国 
        〜とば倒され続けた
        〜とバ倒され続けた

2 常用漢字で表記できる語をカタカナ書きしたもの
    ウチ オマエ カタブツ カベ ゲン(をかつぐ) スレ違う タテ
    タテ タネ ダメ デシ ハガキ ハラ ハレンチ ブザマ フシギ
    ブタ ボク ムゲ(に) ムシ(がよい) モテる ヤジ 
    ヤツ当たり;
    気コウ
 漢字で書けば、内、お前(「御前」なら「御」は表外音訓)、堅物、壁、験、擦れ違う、盾、縦、種、駄目、弟子、葉書、腹、破廉恥、無様、不思議、豚、僕、無下、虫、持てる、野次、八つ当たり、気功。
 いずれも常用漢字ですが、「内」「駄目」「葉書」などは、カナ書きする慣用が定着しています。「堅物」「腹」などをカナ書きしたのは、特殊な効果(ニュアンス、強調など)をねらったものでしょう。
 「気功」はなぜ交ぜ書きしたのか、よくわかりません。もしかしたら、記者が漢字が思い出せなくて、とりあえずカナ書きしておいたものが、そのまま記事になってしまったのかもしれません。カナは便利なもので、いちいち辞書で字を確かめる手間がかかりませんし、日常使われる語なら、読むのにもまったく差し支えありません。
 『常用漢字表』の範囲で表記できるからといって、必ず漢字で書かなくてはならないワケではありません。むしろ、カタカナをうまく使うことによって、読みやすい文章にすることができるでしょう。

3 漢字で表記できない語のカタカナ書き
(1)擬態語・擬声語・感動詞・副詞
    ウロウロ オォー ガタガタ カチン カッ ガッチリ ガラガラ
    ガラリ ガンガン キッチリ キッパリ クヨクヨ コロコロ
    ゴロゴロ サッパリ スッキリ スッパリ ズバッ ズバリ
    チラチラ チラッ ニコニコ ハッキリ パリン ピタリ ピッタリ
    ボケーッ ポツリ ボロボロ ボロンチョン ポン ムンムン
    ヤキモキ;
    ギックリ腰 ブラつく;
    チト
 これらの語の多くは、カタカナで書かれるのが普通です。
 「チト」は、あえて漢字で書けば「些と」または「少と」でしょうが、今ではこんな書き方をする人はいないでしょう。

(2)俗語など
   (ア) デブ ネタ マジ(で); ソツ(なく); ブチ当たる;                    キツイ
   (イ) アイツ アンタ カッコ(いい) サヨナラ
 (ア)は、漢字では書きようがありません。「ソツ」は語源のわからない語。「ブチ」は接頭語。
 「キツイ」は、カタカナで書くことによって特殊な効果を持たせようというのでしょう。最近では、形容詞や動詞などもカタカナ書きすることは、それほど珍しくないようです。
 (イ)は、漢字ではオトを正しく表わすことができません。「アイツ」は「彼奴」と書けますが、「あやつ」とも「きゃつ」とも読めます。

4 音声をそのまま示すためのカタカナ書き
    バカヤロー フザケンナ   
 これらも、特殊な効果をねらったものでしょう。これらのコトバを発する状況や、コトバにこめられた感情がよりリアルに伝わるようです。カタカナのすぐれた表音性をうまく利用しています。
 
 以上みてきたように、この新聞では難しい漢字は避け、カタカナを多く使うことによって、読みやすい紙面にすることに成功しています。このような表記法は、今のところ「高級な」新聞や雑誌ではあまり見られませんが、より多くのマスコミで行われるよう望みたいところです。
 (この新聞は難しい漢字は避けていると書きましたが、残念ながら、それが徹底されていないウラミがあります。なぜかというと表外字がいくつか使われているのです。一蹴、ケサ斬り、蹴る、拳、凄い、掴む。「ケサ斬り」「蹴る」「拳」などは、まさか「専門用語」の扱いにした、などということでも、ないでしょう。このようなコトバならカナ書きしても、何ら不都合はないハズです。一考を願いたいところです。)

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